【量子化学】波動関数とは?その意味を丁寧に解説!

量子化学

1次元箱型ポテンシャル中の粒子についてのシュレディンガー方程式を解くことで波動関数が得られましたが、この波動関数結局のところ何を表しているのでしょうか?

一見しただけではその意味はつかみづらいですよね。教科書には相変わらずよくわからない説明がつらつらと書かれているし。そこで今回はシュレディンガー方程式を解いて得られた波動関数がどのような意味を持つのか私なりにわかりやすく解説していきます。

基本的な1次元箱型ポテンシャル中にある粒子のシュレディンガー方程式の導出は以下をチェック!

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

確かに結局何を表しているのかまではまだわからないな。わかりやすく教えてほしい。

shiki
shiki

そうですね。前回の波動関数の意味を考えた後に量子力学・量子化学の基本も押さえていきます。今回も頑張っていきましょう!

波動関数は確率…?

波動関数の2乗が表すもの

前回導出した波動関数は以下のような式でしたね。

$$\psi=\sqrt{\frac{2}{L}}\sin{\frac{n\pi}{L}x}$$

式だけを見ると係数がついた三角関数にしか見えませんよね。しかしこの関数には粒子が持つ様々な情報が含まれているのです。しかし、そのままでは粒子についての情報は何一つ得られません。この波動関数にちょこっとした工夫を施すことでそれが見えてくるのです。

ここで波動関数の二乗が粒子の存在確率を表すということを思い出してみましょう。

粒子の存在確率を知りたい場合の波動関数へのちょこっと工夫とは、波動関数を二乗してあげることです。こうすることではじめて粒子がある空間に存在する確率が数式として手に入ります。数式がわかれば計算したり、グラフ化したりすることで粒子の存在する確率が高い位置や全く存在しない場所などがわかりますね。

規格化条件との関係

実はこの波動関数の2乗が粒子の存在確率を表すという解釈は、シュレディンガー方程式を解く過程ですでに取り入れていました。気づいた人いますか?時間のある人はシュレディンガー方程式を解く過程に立ち戻って少し考え直してみるのもいいかもしれません。

シュレディンガー方程式を解き、波動関数を導出する過程で係数を決定するために粒子に関する条件を2つ使いました。そう、「境界条件」と「規格化条件」です。もうお分かりですね?この波動関数の2乗が粒子の存在確率を示すという考えが現れているのは、「規格化条件」です。

波動関数の2乗が粒子の存在確率を示すからこそ、前回の係数決定の際に\(0\leq x\leq L\)を満たす範囲内のどこかに粒子は存在するということで

$$\int_{0}^{L}\sin^2{\frac{n\pi}{L}x}dx=1$$

という式が成立するのです。なんだか色々とつながってきましたか?笑

波動関数が表すのは本当に確率だけなのだろうか?

shiki
shiki

ここまで聞くと波動関数は確率を表すだけなの?と考えるかもしれませんが、そんなことはありません。先述したように波動関数には様々な情報が含まれています。次は存在確率以外の情報を見ていきましょうか。

粒子の持つエネルギー

粒子の存在確率以外に波動関数が持つ情報とはどのようにすれば見えてくるのでしょうか?そのためにはそもそものシュレディンガー方程式を考え直してみる必要があります。例として1次元箱型ポテンシャルの場合のシュレディンガー方程式の場合を挙げてみましょう。

$$\hat{H}\psi=E\psi$$

ハミルトニアンは演算子として働き、1次元箱型ポテンシャルの場合は2階偏微分の形をしていたはずです。それを丁寧に書いてみるとこのシュレディンガー方程式は下のようになります。

$$-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}\psi=E\psi$$

このような1次元箱型ポテンシャル中のシュレディンガー方程式を満たす波動関数は前回で計算した通りの方法で方程式を解くことができ、その解となる波動関数は次のような形となっていたはずです。

$$\psi=\sqrt{\frac{2}{L}}\sin{\frac{n\pi}{L}x}$$

さらにもう1つ。シュレディンガー方程式は波動関数を求めるだけの方程式ではありません。この方程式が属する固有方程式の解説はまた別の機会に譲りますが、シュレディンガー方程式は波動関数とそれを満たすエネルギーの2つを求めるための方程式なのです。というわけでハミルトニアンを波動関数に作用させて粒子の持つエネルギーを求めてみましょう。

$$\hat{H}\psi=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}\psi$$

$$=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}\sqrt{\frac{2}{L}}\sin{\frac{n\pi}{L}x}$$

$$=\frac{\hbar^2}{2m}(\frac{n\pi}{L})^{-2}\sqrt{\frac{2}{L}}\sin{\frac{n\pi}{L}x}$$

$$=\frac{\hbar^2}{2m}(\frac{n\pi}{L})^{-2}\psi$$

この計算結果がシュレディンガー方程式の右辺と一致するので求めるエネルギーは

$$\frac{\hbar^2}{2m}(\frac{n\pi}{L})^{-2}\psi=E\psi$$

$$E=\frac{\hbar^2}{2m}(\frac{n\pi}{L})^{-2}$$

両辺にかけられている波動関数を割ってやることで求めたかったエネルギー\(E\)を導出することができます。

エネルギーの不連続性

$$E=\frac{\hbar^2}{2m}(\frac{n\pi}{L})^{-2}$$

シュレディンガー方程式を使って求めたエネルギー\(E\)をもう少し詳しく見てみましょう。この式には量子数\(n\)が含まれていますね。量子数\(n\)は\(n=1,2,3…\)といった自然数をとるため、その値を用いて計算した粒子の持つエネルギー\(E\)のとる値はなんでもいいわけではなさそうです。

量子数が\(n=1、2、3…\)のような自然数をとることからエネルギーは飛び飛びの値となります。このようなエネルギーの不連続性を「エネルギーが量子化された」というのです。

shiki
shiki

簡単に言えば1か10か100しか許されていない世界なので30のエネルギーを持つことや70のエネルギーを持つことはないわけです。なんだか不思議な世界ですね。

隣り合ったエネルギーの間隔

さて、エネルギーの量子化まで理解できたところでもう1つの性質についても確認しておきます。エネルギーの式をもう1度見てみると、量子数\(n\)がエネルギー\(E\)の分母にありますね。

$$E=\frac{\hbar^2}{2m}(\frac{n\pi}{L})^{-2}$$

このような式で表されるエネルギー値において、量子数が隣り合っている場合\((E_{n+1}-E_n)\)を考えてみると、その間隔値がだんだんと小さくなっていることがわかります。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

確かに、分母が大きくなると2つのエネルギー値の差は小さくなっていきますね。これに何か重要なことでもあるんですか?

shiki
shiki

非常に重要なことです。電子が取りうるエネルギーが一定の間隔でないことは頭に入れておくと、分子の振動や回転運動を扱う際に新たな発見があるはずですよ。

エネルギー以外の量について

波動関数がエネルギーに関する情報を持っていることは理解できたと思います。それではそのほかの情報は持っていないのでしょうか?また持っているとすればどのようにそれを引き出せるのでしょうか?

それを理解するにはシュレディンガー方程式の立式に少し立ち戻ってみなければなりません。ハミルトニアンとは何だったのか?波動関数との関係とはどのようなものなのか?今一度整理し直してみましょう。

ハミルトニアン演算子の作り方

1次元箱型ポテンシャル中の粒子についてシュレディンガー方程式を立式したとき、粒子の持つ運動エネルギーと位置エネルギーの和をまず求めてからハミルトニアンを作りましたよね?この過程に今回の答えの重要なヒントが隠されています。

shiki
shiki

そしてそのエネルギーの式から作ったハミルトニアンを波動関数に作用させたらエネルギー値が出てきました。これは何かしらの関係性がありそうです。

粒子の持つエネルギーの式から作ったハミルトニアンを波動関数に作用させた結果、粒子の持つエネルギーが求まったのはもちろん偶然ではありません。

波動関数からすべてがわかる

量子力学においては波動関数が粒子の全ての情報を持っています。しかしこの粒子に関する情報は波動関数を眺めているだけでは何もわかりません。必要な情報を引き出すには少し前でお話しした通り、工夫をする必要があるのです。

波動関数から何らかの情報を引き出す方法とは、その引き出したい「物理量」に対応する演算子を作り、それを波動関数に作用させます。その結果として粒子の持つ演算子に対応した物理量が求まります。この求めた値こそが実験で観測されるような「物理量」に他ならないのです。

shiki
shiki

シュレディンガー方程式の場合はエネルギーに関する演算子を波動関数に作用させたので、それに対応してエネルギーが求まったということになります。

他の例として粒子の角運動量を求めたい場合は以下のような演算子を使います。

$$\hat{l_x}=-i\hbar(y\frac{\partial}{\partial z}-z\frac{\partial}{\partial y})$$

$$\hat{l_y}=-i\hbar(z\frac{\partial}{\partial x}-x\frac{\partial}{\partial z})$$

$$\hat{l_z}=-i\hbar(x\frac{\partial}{\partial y}-y\frac{\partial}{\partial x})$$

shiki
shiki

この演算子をシュレディンガー方程式の場合と同じように波動関数に作用させると角運動量が求まります。例えば\(x\)軸方向の角運動量を求めたいのであれば、求める値を\(L_x\)とすれば方程式は\(\hat{l_x}\psi=L_x\psi\)のようになりますね。

この角運動量に関する演算子を利用した粒子の持つ角運動量の導出もいずれ扱ってみます。

今日の要点

波動関数の性質やハミルトニアンとの関係性などが理解できたかと思います。粒子の持つ物理量を知りたければ、それに対応した演算子を作用させればよいという考え方ができるだけでも、量子化学の見通しはだいぶ明るくなると思います。

shiki
shiki

これで長かった1次元箱型ポテンシャル中の粒子については終わりになります。次回はもっと現実に近づけるためにこれまでの考え方を3次元に拡張してみましょう。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

なんか盛りだくさんな内容だったけど理解できた気がする。量子力学・量子化学って不思議ですね。

  • シュレディンガー方程式を解くとエネルギー値がわかる。
  • エネルギー値は量子化されていて不連続な値しかとらない。
  • 波動関数は色々な情報を持っている。
  • 演算子を波動関数に作用させるとそれに対応した物理量が得られる。

参考文献

量子化学ー基礎からのアプローチ(真船 文隆)

詳解 量子化学の基礎(類家 正稔)

はじめての量子化学 量子力学が解き明かす化学の仕組み(平山 令明)

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