大学に入って「化学」の講義を受けるようになると最初にぶち当たる壁が「量子論」ですよね。急に電子が波なのか、粒子なのかといった話からスタートし、「量子数」と呼ばれる数に出会います。
序盤にも関わらず、このあたりでつまずいてしまった人も多いのではないでしょうか?それもそのはず、高校化学では全く扱いませんからね。
そんなものをいきなり扱うなんてひどすぎませんか?大学での講義が始まってまだ3回目とかなのにこの先が不安すぎます…。
安心してください。これを読めば量子数についての基本はしっかり確認できます。テスト前に焦ることの無いように今のうちに理解してしまいましょう。
1次元箱型ポテンシャルを思い出そう!
実は量子数の一部はもうすでに見たことがあります。「1次元箱型ポテンシャル」って覚えていますか?そう、あのシュレディンガー方程式を初めて解いたときですね。
え?あの問題で「量子数」なんて出てきましたか?さっぱり覚えていません。笑
実は出てきたんですよ。よく見てみると、エネルギーの式に\(n\)が入っていますよね。これが「量子数」と呼ばれる数字です。
ひとことで「量子数」とはいっても、実はいくつもの種類があります。次で一般的な量子数である「主量子数」、「軌道量子数」、「磁気量子数」、「スピン量子数」についてそれぞれ見ていきましょう。
4つの量子数
ここからは4つの量子数を順番にみていきます。量子数はこれ以外にもたくさん存在するのですが、とりあえず4つを押さえておけば化学の序盤は大丈夫でしょう。それ以外の量子数については教科書に出てきたときに理解すればよいのです。
主量子数
主量子数とは、高校化学に出てきた電子殻に対応して番号が付けられています。
高校化学では電子がまわる軌道を内側から順に\(K\)殻、\(L\)殻、\(M\)殻…としていきましたよね。この電子殻に内側から\(1,2,3…\)と番号を付けていったものが主量子数です。
つまり、\(K\)殻が主量子数\(n=1\)に対応して、\(L\)殻は\(n=2\)に対応するということですか?
そういうことです。単純に内側の電子殻から番号を付けたと思えばいいでしょう。
それではこの番号は一体どこから出てきたのでしょうか?実は、これが「1次元箱型ポテンシャル」と最もつながりが深いんですよ。
1次元箱型ポテンシャルとのつながり
1次元箱型ポテンシャルの場合の電子のエネルギーを思い出しましょう。連続的なエネルギーではなく離散的なエネルギー、つまり飛び飛びの値をとると学習したはずです。
もちろん電子はフント則に従って、全体のエネルギーが最も低くなるように充填されるので\(n=1\)の軌道がまず充填されます。次に\(n=2\)が充填され、次は\(n=3\)…といったように電子が詰まっていきます。
これってどこかで見たことないですか?そうです、高校化学の\(K\)殻や\(L\)殻と全く同じなんですね。
エネルギー順
ここまで見てきたように、主量子数\(n\)というのは高校化学で学習した電子殻の名前である\(K\)殻や\(L\)殻に対応し、数字が小さいほど軌道のエネルギーも小さくなるということがわかりましたね。
なるほど。主量子数\(n\)を考える際は電子殻のことだと思えばいいんですね。そういえば、この\(n\)って\(sin\)関数の周期に使うために出てきたな。シュレディンガー方程式
軌道量子数
さて、ここから少しずつ難しくなっていきます。次は軌道量子数についてみていきましょう。簡単に言うと、軌道量子数とは同じ電子殻中の軌道の方向を表しています。
はい?全く意味が分かりません。同じ電子殻なのに方向が違うんですか?
実はそうなんです。高校化学では電子殻の分類しか学習しませんが、この電子殻の中でもさらに細かく軌道は分類されます。みなさん大好き\(s\)軌道、\(p\)軌道とかですね。
つまり、同じ電子殻の中でも軌道はさらに分類されていて、それが\(s\)軌道、\(p\)軌道と呼ばれるものになります。この軌道の名前は\(s\)、\(p\)、\(d\)、\(f\)…の順になっています。
ちなみにこの変則的なアルファベットに理由は歴史的なものです。発見者が勝手に名付けた結果でしょうかね?笑
ここまでをまとめると、まず主量子数\(n\)で大きく分類され、同じ主量子数\(n\)の中でも細かく軌道量子数\(l\)で分類されるということになります。もちろん、\(s\)軌道や\(p\)軌道といった各軌道のエネルギーは少しずつ違います。
磁気量子数
さてはやくも3つめの量子数になります。磁気量子数についてみていきましょうか。磁気量子数とは先ほどの方位量子数\(l\)によって分類された軌道をさらに細かく分類するためのものです。
ただし、方位量子数\(l\)とは異なる部分もあります。それは磁気量子数\(m\)で分類される軌道のエネルギーは同じなのです。
つまり、主量子数\(n\)と方位量子数\(l\)が同じ軌道は磁気量子数\(m\)が異なっても同じエネルギーを持つということです。それでは磁気量子数\(m\)とは何のためにあるのでしょうか?
磁気量子数\(m\)は軸に由来
原子の周りにいる電子を考えるとき、普通は原子核を原点において座標を考えます。このとき座標軸は\(x\)軸、\(y\)軸、\(z\)軸の3つを考えるか極座標を使う必要があります。
このとき、\(s\)軌道以外の電子軌道は軸に沿った方向を持ちます。例えば\(p\)軌道を例に挙げると、具体的には以下のような軌道になります。
Azu– Function View ver560c にて作成、Adobe Photoshopにて加工
CC 表示 3.0 ,リンクによるwikipedia p軌道より引用
同じ\(p\)軌道でも\(x\)軸方向の軌道、\(y\)軸方向の軌道、\(z\)軸方向の軌道と3つあるんです。ちなみに\(s\)軌道はいつでも球形で対称なので、軸は関係ありませんね。
つまりこの軸方向を決めるような要素が必要になるわけです。その要素というのが磁気量子数\(m\)になります。ただ、最初に行ったように沿う軸が違うだけなので磁気量子数\(m\)だけが違う軌道のエネルギー値は同じなのです。
スピン量子数
ついに最後になりましたね。スピン量子数\(m_s\)についてみていきましょう。スピン量子数はこれまでの3つの量子数とは全く違い、軌道についての量子数ではありません。電子自身が持つ量子数です。
これまでの量子数は軌道を分類するためのもので、その軌道に入った電子にその量子数を当てるものでした。しかしスピン量子数\(m_s\)は軌道とは全く関係がありません。
電子スピンの発見
電子スピンとはそもそも何なのでしょうか?少し経緯をたどってみましょうか。むかしむかしある科学者が不均一な磁場中で蒸気状の銀原子を発射すると、必ず2つの方向に分裂することを発見しました。
wikipediaに図が掲載されているのでリンクを貼っておきます。
中間的な位置にも飛びそうなものですが、そのようにはならずに必ず2つの方向に分裂するような結果しか得られなかったということです。
この実験結果からゴーズミットとウーレンベックは電子が自転している、つまり右回りと左回りといった状態による2つの角運動量を持つと考えられました。これを「電子スピン」といいます。
ちなみにこの「電子の自転」説はその後、特殊相対性理論によって否定されています。自転速度が光速を超えてしまうらしいですね。しかし、これはスピンが自転由来ではないということの証明で、スピン自体の否定ではありません。
スピン量子数
このように電子スピンは2つの限られた値しかとりません。そこでスピン量子数は\(\frac{1}{2}\)と\(-\frac{1}{2}\)の2つの値を取るとされました。なぜ、このスピン量子数が分数なのかについても色々あるのですが、ここでは省略します。
とりあえず、スピン量子数は\(\frac{1}{2}\)と\(-\frac{1}{2}\)の2つがあるとわかっておけばOKですね。
量子数は数学的に必要
今回みてきた4つの量子数ですが、すべてただ分類のために番号を付けたのではなく数学的に必要なのです。つまり、勝手に番号を付けたわけではなく、ちゃんと理論的な裏付けがあるのです。
詳しくは参考文献を勉強してみてください。1つ例をあげると、主量子数\(n\)は三角関数による必要性から出てきましたよね。他の量子数も同様にあくまで必要になったから導入しているのです。
さらにこの量子数が実際の実験では大いに役立つこともあったりするのですが、その話はまたの機会のしましょう。
今日の要点
今回は4つの量子数である主量子数\(n\)、方位量子数\(l\)、磁気量子数\(m\)、スピン量子数\(m_s\)についてみてきました。波動関数を考えるときや分光実験の結果を考察するときにも役立つことでしょう。
まあまずは軌道との関係性を理解していれば十分でしょう。スピン量子数以外の量子数によって軌道が決まりますよ。
参考文献
量子化学ー基礎からのアプローチ(真船 文隆)
詳解 量子化学の基礎(類家 正稔)
はじめての量子化学 量子力学が解き明かす化学の仕組み(平山 令明)
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