今回は理系学部に進学したら、1度は出会うであろう「パウリの排他原理」と「フントの規則」についてわかりやすく解説していきます。
化学系の講義ですでに出会った人も多いのではないでしょうか?大学の講義はなぜか量子化からスタートし、急に量子数、スピンそしてあっという間にこの2つの規則まで到達しますからね。
そうなんです!よく理解できないままどんどん進んでしまって気づいたらその2つが出てきました。詰みかけています…泣
ここでしっかり理解するためにそれではさっそく見ていきましょうか。
4つの量子数を思い出そう!
パウリの排他原理とフントの規則を理解するためにはまず量子数について思い出す必要があります。量子数には主量子数\(n\)、方位量子数\(l\)、磁気量子数\(m\)、そしてスピン量子数\(m_s\)の4つがありましたよね。
実は「パウリの排他原理」というのは、上で挙げた4つの量子数\(n,l,m,m_s\)に深く関連しています。
ちなみに量子数をすごく簡単に例えると、電子1つ1つに振られた番号のようなものです。住所でも「○丁目△番地××」といった具合に複数の数字を使って区別しますよね?最初はあれと同じと考えておくと良いかもしれません。
実際にはこの番号も適当に振られたものではなく、電子の持つ角運動量などの物理量とも関連した意味のある数字です。しかしここでは「電子1つ1つを区別するためのもの」ぐらいの認識でいいでしょう。
パウリの排他原理
それでは4つの量子数が少し思い出せたところでパウリの排他原理についてみていきましょうか。
パウリの排他原理を厳密に説明すると「2つ以上の電子は同一の量子状態を占めることはできない」といった説明になります。
いや…。全く頭に入ってこないし、理解できません。笑 もっとわかりやすくできないんですか?
そうなんです。この説明で理解しろと言われても無理ですよね。そこで登場するのが先ほど出てきた「量子数」と「住所の例え」です。
パウリの排他原理は電子の住所?
「パウリの排他原理」と「量子数」、「住所」にどういった関係性があるのでしょうか?
まず、量子数とはいくつもある電子を1つ1つに付けられた番号のようなものと理解しましたよね。この番号が4つあり、それぞれの番号にも名前がついていました。
パウリの排他原理を超簡単に説明すると、「同じ住所の電子は存在しない」または「1つの住所にいる電子は1つのみ」といった感じになります。
つまり、電子の住所は主量子数\(n\)、方位量子数\(l\)、磁気量子数\(m\)、スピン量子数\(m_s\)の4つの数字で決まっており、被っているものはないということです。
まあ。現実でも全く同じ住所(つまり同じ家)に赤の他人が住んでいたら嫌ですよね。
電子が量子数であらわされる住所を持っているのは分かりました。で、これが何の役に立つんですか?
電子配置
電子がみんな違った住所を持つことは「電子配置」に対応しています。つまり複数の電子を考える場合、全員が違った住所になるように電子の住所(=量子数)を決めてあげなければいけないのです。
たとえば3つの電子を配置する場合は電子A(\(e_A\))、電子B(\(e_B\))、電子C(\(e_C\))とすると
\(\begin{cases}e_A=(1,0,0,\frac{1}{2})\\e_B=(1,0,0,-\frac{1}{2})\\e_C=(2,0,0,\frac{1}{2})\end{cases}\)
となるようにする必要があるのです。
そしてこれは電子配置、つまりみなさんが苦手なあの\(s\)軌道、\(p\)軌道、\(d\)軌道…といった話へとつながります。忘れている人は以下をチェックしましょう。
軌道に電子を入れていく
さて、軌道に電子を配置していきましょう。ただし、これまで見てきた通り同じ量子数(=同じ住所)に電子を配置するのはNGなので注意します。
ちなみに\(1s\)軌道、\(2s\)軌道、\(2p\)軌道…といった各軌道は2階建てです。この階数はスピン量子数\(m_s\)に対応しています。
なるほど!だから\(1s\)軌道に向きの違う電子が入れるわけですね。他の軌道も同じように考えていいのですか?
大丈夫です。スピンは上向きか下向きの2パターンだけですから、軌道1つを2階建ての家とみるととても都合がよいです。
そういえば、なんとなく\(n=1\)の\(1s\)軌道から電子を入れていきましたけど、\(n=3\)の\(3s\)軌道や\(n=4\)の\(4s\)軌道からではダメなのですか?
いいところに気づきましたね。電子を軌道に配置する際はエネルギーが最も小さい\(n=1\)からというのが決まりです。このルールを「フントの規則」といいます。
フントの規則
パウリの排他原理が「2つ以上の電子は同一の量子状態を占めることはできない」、つまり「電子は軌道の同じ住所に住めない」であることがわかったので、次はフントの規則についてみていきましょう。
フントの規則はエネルギーに関係している
先ほどまでの流れを確認しましょう。\(1s\)軌道や\(2p\)軌道に電子を入れていきたいけど、順番についてのルールはパウリの排他原理にはありませんでしたよね。これを解決するのが「フントの規則」です。
たしかに「パウリの排他原理」だけでは\(n=2\)の軌道や\(n=3\)の軌道から電子を入れても良さそうでしたね。
前提として、球が坂道を下っていくようにこの世の物質は「エネルギーが低い状態」が大好きなので、放っておけばその状態に向かって変化していきます。この前提を電子配置に適用したのがフントの規則であり、その内容は「電子はエネルギーが小さくなるように充填されていく」です。
軌道の解説に出てきたように電子を軌道に配置するとその分、プラスの電荷(原子核)とマイナスの電荷(電子)が近づくので全体は安定化します。
そしてその安定化の影響は軌道が原子核に近いほど大きくなるため、\(1s\)軌道から順に電子が入っくのです。軌道エネルギーの順番については以下をチェックしましょう。
なるほど!これで\(1s\)軌道から順に電子が入っていくことがわかりました。あ、でも\(2p\)軌道とかはどうするんですか?\(2p_x\)、\(2p_y\)、\(2p_z\)軌道の3つがありますが…
確かに\(2p\)軌道は同じエネルギーの軌道が3つあります。こういう時のためにちゃんと第2のルールがあるんですよ。
第2のフントの規則
同じエネルギーの軌道が複数ある時に使う第2のフントの規則についてみていきましょう。何も難しいことはありません。ここで思い出さないといけないのは「電子のスピン」です。
大雑把に言えば、「電子スピンの和がより大きくなるように配置する」です。つまり、\(2p_x\)、\(2p_y\)、\(2p_z\)軌道のような同じエネルギーの軌道なら、電子はできるだけバラバラに入れないといけないということですね。
例えば、計3つの電子を\(2p_x\)軌道に2う、\(2p_y\)軌道に1つ配置すると、全体のスピン量子数の和は\(frac{1}{2}\)です。しかし、\(2p_x\)、\(2p_y\)、\(2p_z\)軌道のそれぞれに1つずつ配置すると、そのスピン量子数の和は\(frac{3}{2}\)となります。
フントの規則にから、電子のスピン量子数の和が大きい方がエネルギーは小さいので、この場合は\(2p_x\)、\(2p_y\)、\(2p_z\)軌道それぞれに電子を1つずつ配置した方が良いということになります。むしろフントの規則はこの意味合いで使うことの方が多いかもしれませんね。
今日の要点
今回は「パウリの排他原理」と「フントの規則」の2つを見てきました。今回はとても簡単に説明していきましたが、学習を進めていくうちに量子状態やその他の物理量を結び付けていきましょう。
しっかり理解することで、今後の化学や電子の学習を奥深いものにしていくことが出来るでしょう。まずはなんとなく理解して、一通りのイメージを持ってから、小難しい教科書に入るのもいいかもしれません。
これは理系科目全般に言えるかもしれませんが、まずはイメージを持つことが重要です。本質的な理解は後回しにして、効率よく学習を進めましょう。
参考文献
量子化学ー基礎からのアプローチ(真船 文隆)
詳解 量子化学の基礎(類家 正稔)
はじめての量子化学 量子力学が解き明かす化学の仕組み(平山 令明)
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