今回は原子核と電子の座標によって、分子のエネルギーがどのように変化するのかを考える際に重要となる「ポテンシャルエネルギー曲線」とその1例として「モースポテンシャル」を見ていきましょう。
また今回も難しそうなテーマですね。
エネルギーがどうこうと言うと難しそうに聞こえてしまいますが、分かってしまえば何てことはありません。まずは一般的なことを理解して、そのあとに具体例を見ていきましょう。
ポテンシャルエネルギーについての関数
まずは高校数学までで学習してきた関数について復習しておきましょう。関数とはある変数\(x\)に対して何かしらの値を計算できる、\(y=f(x)\)の形で表されるものでした。
いや、さすがにその程度は知っていますよ。笑
まあまあそんなことは言わずに、基礎の基礎からしっかり理解することが重要なのですよ。
この変数\(x\)に分子や電子の座標を使ってエネルギーを表すのがポテンシャルエネルギーについての関数となります。実は、高校物理に目を向けると既にいくつか学習済なものもあります。
静電エネルギーを示す関数
ここで、静電エネルギーを表す式を思い出してみましょう。高校物理の電磁気分野で学習する2つの電荷が距離\(r\)の位置に存在するときに持つエネルギーのことで、下の式のように表されます。
$$V(r)=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{q_1q_2}{r}$$
この式中には\(\pi\)や\(\epsilon_0\)のような定数のほかに、距離を表す\(r\)や電荷を表す\(q_1\)と\(q_2\)といった変数がありますが、今回注目するのは距離についての変数\(r\)です。ここで、この電荷による静電エネルギーが距離\(r\)によってどのように変化するのかについて考えてみましょう。
静電エネルギー\(V(r)\)と距離\(r\)の関係性
先ほどの式をもう1度見てみると、距離を示す\(r\)は式中の分母になっています。その他の電荷を示す\(q_1\)や\(q_2\)を定数とみなすと、\(V(r)\)と\(r\)は反比例の関係性であることがわかります。
この関係性を横軸に距離\(r\)、縦軸に静電エネルギー\(V(r)\)をとったグラフに表すことを考えると、上で確認したように反比例の関係性ですから、もちろん双曲線の形となります。
ちなみに\(r\)は距離を表しますから、双曲線とは言っても定義域は\(r>0\)ですよ。
これがまさしく、高校物理での電荷が持つ静電エネルギーに着目した場合のポテンシャルエネルギーを表す関数であり、エネルギー\(V(r)\)と距離\(r\)の関係性が反比例であることが理解できます。
なるほど、ポテンシャルエネルギーを表す関数については理解できました。それで、これが分子のポテンシャルエネルギーどう関係があるんですか?
分子のポテンシャルエネルギー
それではポテンシャルエネルギーがどのようなものか理解できたところで、分子のポテンシャルエネルギーについて話を戻しましょう。これから考えることも内容自体は先ほどとあまり変わりませんが、静電エネルギーでは距離\(r\)だけであった変数がもう少し増加する点が少し違います。
変数が増えるだけで、内容はそこまで難しくないということですね。
ある変数を用いて分子が持つポテンシャルエネルギーを何かしらの関数として表したいということは分かっていると思いますので、まずはその変数から考えてみましょうか。
分子中の変数
さて、分子にはどのような変数があるでしょうか。分子の種類にもよりますが、まずは簡単に考えるために水や二酸化炭素のような三角形の形をとっていないような3原子分子について考えてみましょう。
ポテンシャルエネルギーの変化をイメージする際は、初めに「最も安定そうな構造」を想像してみるとエネルギーの変化がわかりやすいです。つまり、考えた分子の構造が初めに想像した最も安定そうな構造から逸脱すればするほど、分子全体も不安定化し、その結果としてエネルギーが高くなってしまうということになります。
なるほど。例えば結合距離がすごく大きくなったり、逆にすごく近くなってしまうと不安定化するということですよね。
その通りです。それでは3原子分子で3つの原子の結合距離について考えてみましょう。
結合距離
3原子分子は3つの原子からできており、それらの間には共有結合が存在します。この結合はおおよそ一定値をとるのですが、その結合を引き延ばすことを考えてみましょう。
原子は単独で存在するよりも、結合を形成して分子の状態で存在する方が安定であるからこそ、分子の形となっているわけです。つまり、結合を引き延ばしてお互いが離れた原子に近い状態になれば、その分だけ不安定化します。
つまりベストな距離よりも引き延ばされるとエネルギーが上昇してしまうということですよね。
付け加えると、上昇するとはいっても原子状態で存在するとき以上のエネルギー値にはなりません。それは、今回考えている引き延ばされた状態でのエネルギーの最大値はそれぞれが原子として存在する状態だからですね。
反対に、結合距離をもっと短くするときはどうなるでしょうか。結論から言うと、この場合もエネルギーは上昇します。しかし、結合を引き延ばす時とは異なり、近づける際のエネルギー上昇は急激になります。これは、原子核同士が近すぎると電子による結合させる影響よりも正電荷同士による反発の影響の方が大きくなってしまうからです。この反発の力は距離が近い場合はとてつもなく強いものになってしまうので、引き伸ばすよりも急激に不安定化します。
結合角
ここまで各結合距離に変化についてみてきましたが、実は3原子分子の変数には結合角というもう1つの変数が隠れています。これは水分子を思い出してもらうとわかりやすいですね。水分子の形は折れ曲がった形をしていますが、あの折れ曲がった間の角度を結合角といい、水だと約104度、二酸化炭素分子であれば直線分子なので180度ですね。
結合角も変化させることを考えるのですか?
その通りです。例えば水分子の結合角が180度だった場合を考えてみましょうか。
水分子は約104度で最も安定となりますが、これを無理やり180度にすることを考えるわけですから、もちろん分子は不安定化します。そして、その分分子が持つポテンシャルエネルギーは増加してしまいます。
二酸化炭素分子についても同様のことが言えて、もともと180度で最も安定な構造だったものを無理やり折り曲げることを考えれば、分子が持つポテンシャルエネルギーは上昇することが分かるかと思います。
分子中の変数について
今回は3原子分子を例に取り上げて考えたので、分子中の変数は結合距離を表す変数が2つと、結合角を表す変数が1つの計3つしかありませんでしたが、これらの変数は分子に含まれる原子数の増加に伴って増えていきます。
原子数が増えると新たな変数として二面角というのも出てきますよ。
とりあえずは、分子の変数が変わるにつれて分子が持つポテンシャルエネルギーも変化するということがわかりました。それで、それらの関数って実際どのようになっているのですか。
ここまで話してきたのはあくまで直観的な理解です。そして、関数の形については主に2つの近似的な表現が使われます。
分子のポテンシャルエネルギー関数
それでは関数の実際の形を見ていきましょう。ここでは、「Morse potential (モースポテンシャル)」と「Lennard-Jones potential (レナード・ジョーンズポテンシャル)」の2つを紹介します。
Morse potential (モースポテンシャル)
モースポテンシャル関数の形は原子間の結合距離\(r\)と平衡結合距離\(r_e\)、結合エネルギー\(D_e\)を用いて下のように表されます。
$$V(r)=D_e(1-e^{-a(r-r_e)})^2$$
これは分子中に含まれる、ある2原子間の結合のみに注目したものであることに注意しましょう。この関数のグラフは下のリンクから見てみましょう。このように分子中の変数を横軸にとり、ポテンシャルエネルギーを縦軸に取ったグラフをポテンシャルエネルギー曲線といいます。
あ、しっかり原子同士が近づきすぎれば急激に不安定化して、離れれば一定値に近づいていますね。
いいところに気づけていますね。この関数形は平衡結合距離\(r_e\)、結合エネルギー\(D_e\)がすぐにわかるところが良い点ですね。
Lennard-Jones potential (レナード・ジョーンズポテンシャル)
概要
次に、レナード・ジョーンズポテンシャルを見ていきましょう。このポテンシャルはフィッティングパラメータとして\(\sigma\)と\(\epsilon\)を用いて、次のように表されます。
$$V(r)=4\epsilon[(\frac{\sigma}{r})^p-(\frac{\sigma}{r})^q]$$
この式において、\(p=6\)と\(q=12\)と置いたものが最もよく用いられます。
フィッティングパラメータって何ですか?
フィッティングパラメータとは実験的事実に合うように式を調整するための文字くらいの理解で大丈夫でしょう。どの原子を考えるかによってどの値を用いるべきかが変わってくるので文字で表しています。
最後に、ポテンシャル関数の指数を\(p=6\)と\(q=12\)と置く理由を確認して終わりにしましょう。
指数の意味
この指数も適当においているわけではなく、きちんとした意味があります。それは原子同士が持つ引き合う力と反発する力の両方を表しているのです。引き合う力のことを分散力といい、これは正電荷と負電荷が引き合うのによく似ています。詳しいことは割愛しますが、高校化学で学習する極性と同じようなものだと思っていくれればいいでしょう。
この引き合う力の強さが距離の6乗に比例するため、\(p=6\)と置くことにはちゃんとした理由があるのです。
また、反発する力については電子雲の反発によって引き起こされます。イメージだけで言うと、電子は負電荷ですので、近づきすぎると反発してしまうのです。
ちなみにここに書いた原子が互いに及ぼす影響の詳細については不正確です。合っているのは分散力と呼ばれる引き合う力と反発力が両方働くということだけですので、注意しましょう。また機会があればこのような原子や分子同士の相互作用についてもいずれまとめましょうか。
なるほど、その点については注意します。
まとめ
今回は分子のポテンシャルを表す関数について、「Morse potential (モースポテンシャル)」と「Lennard-Jones potential (レナード・ジョーンズポテンシャル)」の2つを見てきました。どちらもよく使われるしきですので、各項の意味も含めてしっかり理解しておきましょう。
時間があれば、このポテンシャルを用いてシュレディンガー方程式を解くなんてこともしてみると良いかもしれませんね。
今回も中々長かったのでやめてください笑
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