「蛍光」という単語はどこかで聞いたことはありませんか?この単語は量子化学でも使われるため、教科書でもしっかり出てきます。今回は、そんな「蛍光」の意味を正確に理解していきましょう!
これからの内容をしっかり理解して、蛍光灯が点灯する理由や目覚まし時計の針が暗闇で光る原理を説明できるようになりましょう。
電球には細い金属線があった気がするけど、蛍光灯には無い…。確かに「なぜ?」と聞かれると…わからないです。
【復習】エネルギー準位のおさらい
最初に励起された電子とそれを表すエネルギー準位図を見直しておきます。しっかり内容を理解しておきたい人は以下をチェックしましょう。
この記事を参考にすると、電子は光などの形で外部からエネルギーを得ることによって、より不安定な軌道へ移動することが分かります。さて、ここでこの電子は移動した後どうなるのかということを考えてみましょう。
この記事のときは不安定な軌道へ移動した後の話はなかったですね。
今回の「蛍光」についてのお話は、この不安定な軌道へ入った電子の「その後」に密接に関わっています。エネルギー準位図も使いながらしっかり理解しておきましょう。
エネルギーを失う過程
電子がエネルギーを失うには様々な過程があります。中学生の理科で習うような例をいくつか挙げると、熱としてエネルギーを放出する過程や音としてエネルギーを失う過程というのがありますよね。
そうですね。位置エネルギーに注目するとその位置から物体を移動させるだけでもエネルギーを失うことがあります。
その中でも今回注目するのは、お察しのとおり分子が「光」の放出によってエネルギーを失う過程です。励起された分子や原子は得たエネルギーを光として放出し、安定なエネルギー状態(光を吸収する前の状態)に戻ります。
この過程で放出される光の名前を「蛍光」や「りん光」といいます。最初の話に戻ると、「蛍光灯」が光る原理もこの現象に基づいています。
分子や原子の話と結びつけると、エネルギーが高い励起状態からエネルギーの低い基底状態に戻るときに放出される光が「蛍光」や「りん光」です。
蛍光とりん光
それでは放出される光の名前の違いについて見ていきましょう。ここでは、励起状態についての解説の際に出てきたことがキーポイントとなります。
電子の励起をエネルギー準位図で表したときに、矢印の向きが上向きと下向きの2パターンという話がありました。蛍光とりん光の違いはその点に起因します。
蛍光
まずは蛍光から見ていきます。上の記事の内容を参考にすると、蛍光とは電子のスピン(エネルギー準位図中の矢印の向き)がそのままの状態で不安定な軌道へ励起された後に観測される光のことです。
つまり、下向きの電子は下向きのまま不安定な軌道に励起され、上向きの電子は上向きのまま励起されることを言います。
このときの光の特徴としては「励起されて光始めるまでが早いこと」、「すぐに発光が終わること」が挙げられます。この理由を少し解説していきます。
まず励起後と励起前、つまり蛍光を放出する前と後のエネルギー準位図を比べてみましょう。まずは励起された状態(蛍光を放出する直前)です。
次に基底状態(蛍光を放出した直後)のエネルギー準位図です。
ここで注目するのは、\(2p_x\)軌道と\(2s\)軌道間を移動した電子のスピンを表す矢印の向きです。励起された状態と基底状態のどちらにおいても向きは変わっていません。
これは非常に重要なことです。スピンの向きが励起状態と基底状態で変化しないからこそ、蛍光が放出されるまでに時間はかかりませんし、放出し終わるのも早いのです。
電子のスピン変化、つまり励起状態と基底状態で上向きの電子と下向きの電子それぞれの数が一致せず、どちらかが多いような場合では光の放出に時間がかかります。
これは、電子のスピンが変わらないままを放出する蛍光とは異なり、光を放出する前にスピンの変化→光の放出というステップを踏まなければいけないためです。
なるほど。ステップを多く踏めば踏むほど発光が遅れるわけですね。
「蛍光」とは異なり、電子のスピン変化を伴う発光のことを「りん光」といいます。それでは次に「りん光」の性質を見ていきましょうか。
りん光
先ほどの蛍光に対して、りん光の特徴は「励起されて光始めるまでが蛍光に比べて遅いこと」、「蛍光に比べて長い時間光続けること」が挙げられます。
蛍光と比べているところがポイントです。スピン変化があるかないかだけで大きく性質が異なります。ちなみに、この長い時間の発光が最初に出てきた目覚まし時計の針が暗闇で光る理由です。
もし実際の発光時間を知りたい方は教科書等を参考にしましょう。ちなみに発光時間とはいってもナノ秒やピコ秒といった長さですので、人間からしてみればどちらの発光現象もほんの一瞬の出来事です。
だからわざわざ「蛍光との比較が重要」と言っていたのですね。2つの発光についてなんとなく理解できました!
発光の分析
蛍光とりん光について理解できたところでこの現象を利用した実験などを見ていきます。ただの発光だと思わずに、どのように使えるのかというところまで知っておいた方がお得です。
最初に出てきた蛍光灯はこの現象を利用したものの1つですよね。他にもあるんですか?
今回は身の回りの製品ではなく、大学等での利用方法について書きます。つまり実験でどう使われるか、何が分かるのかという視点です。
試料に含まれる原子の種類
まず1つめは「原子の種類」です。これはりん光の観測に大きく関わっており、ハロゲン原子や金属原子の影響が現われます。
詳しい説明はまたの機会に行いますが、りん光は炭素原子や水素原子で構成される有機分子からはあまり観測されません。一方でハロゲンや金属が含まれると強く観測されるようになります。
もちろん全部ではありません。一般的な傾向として観測されやすくなるということに注意です。これを「重原子効果」といいますが今は保留にしておきましょう。
全部を一気に覚えきれないので、ぜひ別の機会に解説してください。
分子の構造
蛍光やりん光は分子のあるエネルギー準位からの発光であることはすでに解説した通りですが、このエネルギー準位において分子はそれぞれ独自の構造を持ちます。つまり、どのエネルギー準位からの発光かが分かればその時の構造も逆算できるということです。
実際には言うほど簡単ではありません。1種の手がかりとして用いられるくらいの認識を持っておけば良いでしょう。
今回の要点
今回は蛍光とりん光をエネルギー準位や電子の振る舞いから解説しました。しっかり理解したい人は教科書等を読むとさらに知識が深まります。しかし、テストさえ乗り切ればOKな人など、深く理解する必要のない人はイメージだけでも持ってもらえれば良いでしょう。
この蛍光とりん光以外にもエネルギーを失う課程はたくさんあるのですが、複雑になるのでまたの機会にしましょう。
えーー。まだあるんですか?全部は理解できない気がしてきました…。
それは大丈夫です。先人たちが全部含めて1枚の図にまとめてくれていますので、それを暗記して乗り切れます。その名をヤブロンスキー図といいますので、これもいつか解説したいですね。
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