今回は3次元空間でのシュレディンガー方程式を見ていきます。1次元ではなく実際の粒子に対して使えるように、3次元へ拡張してみましょう。
1次元の場合と何か変わるんですか?
もちろん軸の数が増えるので変数が\(x\)、\(y\)、\(z\)と多くなります。しかし基本的な考え方は変わりませんよ。
1次元箱型ポテンシャルについては下の記事を参考にしましょう。今回は、1次元箱型ポテンシャルの結果を基に解説をするので、忘れている人は1度戻ることをおススメします。
1次元と3次元の違いと共通点
この時考えた軸は\(x\)軸だけでしたね?粒子は右か左にしか移動しないと仮定しました。
しかし実際は高さや奥行きもあるわけで粒子は空間中を移動できるのでシュレディンガー方程式は\(y\)軸や\(z\)軸も考えないといけないわけです。
3次元の箱型ポテンシャルの図は下のように考えます。
各軸だけで考えれば1次元箱型ポテンシャルと同じですが、軸を3本考えなくてはならない点では1次元の場合とは違います。
しかし
$$0\leq x\leq L_x$$
$$0\leq y\leq L_y$$
$$0\leq z\leq L_z$$
を満たす範囲の外では粒子は存在できないといったような共通点もあります。
これはポテンシャルエネルギーが無限大となるからでしたね。無限大のエネルギーを持った粒子なんて存在しません。
シュレディンガー方程式~3次元箱型ポテンシャル~
シュレディンガー方程式の立式
それでは1歩ずつ式を立てていきましょう。まずシュレディンガー方程式の基本形は以下のような式でしたね。
$$\hat{H}\psi=E\psi$$
確か「演算子」というものを考えるんでしたよね。それで固有方程式を作る…みたいな?
そうでしたね。演算子は運動量の置き換えで作ることができます。次の段落以降で見ていきましょうか。
置き換えによるハミルトニアン
まずハミルトニアンを考えるには粒子が持つエネルギーを考える必要があります。粒子は運動エネルギーとポテンシャルエネルギーを持っていますが、今回のポテンシャルエネルギーは0と考えるので運動エネルギーのみを考えます。
$$E=\frac{1}{2}m({v_x}^2+{v_y}^2+{v_z}^2)$$
3次元中での運動を考えているのでそれぞれの成分で考えています。斜方投射のときの考え方と全く同じです。
そして運動量を表す式である
$$p_x=mv_x$$
$$p_y=mv_y$$
$$p_z=mv_z$$
を使ってエネルギーの式を書き換えると
$$E=\frac{1}{2m}({p_x}^2+{p_y}^2+{p_z}^2)$$
となります。この式で運動量を演算子で置き換えると
$$p_x→-i\hbar\frac{\partial}{\partial x}$$
$$p_y→-i\hbar\frac{\partial}{\partial y}$$
$$p_z→-i\hbar\frac{\partial}{\partial z}$$
の置き換えを行うので、求めるハミルトニアンは
$$\hat{H}=-\frac{\hbar^2}{2m}(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2})$$
と求めることができます。
シュレディンガー方程式の立式
ハミルトニアンが求まったのでシュレディンガー方程式全体を見てみましょう。
$$-\frac{\hbar^2}{2m}(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2})\psi(x,y,z)=E\psi(x,y,z)$$
\(x\)軸、\(y\)軸、\(z\)軸の3つについて考えているので偏微分が3つの変数になっています。しかしその他はほとんど一緒ですね。
また今回の波動関数の変数は\(x\)、\(y\)、\(z\)の3つなので偏微分を用いる必要があります。
シュレディンガー方程式を解く
今回立式した3次元箱型ポテンシャルを解く前に1次元の場合の波動関数を見ておきましょう。
$$\psi(x)=\sqrt{\frac{2}{L}}\sin{\frac{n\pi}{L}x}$$
ちゃんと覚えています。これが何か関係あるんですか?
関係大アリです!今回の方程式を解くには1次元箱型ポテンシャルの答えを利用します。
方程式の変数分離
方程式には3つの変数が入っています。しかし粒子は自由に運動するので\(x\)、\(y\)、\(z\)は互いに独立しています。そのため波動関数は次のように書き換えられます。
$$\psi(x,y,z)=\psi(x)\psi(y)\psi(z)$$
この波動関数は結局、偏微分によって各変数における1次元箱型ポテンシャルと同様の考え方が使えます。つまり下の式のようになるわけですね。
$$-\frac{\hbar^2}{2m}(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2})\psi(x)\psi(y)\psi(z)=E\psi(x)\psi(y)\psi(z)$$
変数の微小変化
これを変形すると
$$\frac{1}{\psi(x)}\frac{\partial^2\psi(x)}{\partial x^2}+\frac{1}{\psi(y)}\frac{\partial^2\psi(y)}{\partial y^2}+\frac{1}{\psi(z)}\frac{\partial^2\psi(z)}{\partial z^2}+\frac{2m}{\hbar^2}E=0$$
$$\frac{1}{\psi(x)}\frac{\partial^2\psi(x)}{\partial x^2}+\frac{1}{\psi(y)}\frac{\partial^2\psi(y)}{\partial y^2}=-\frac{1}{\psi(z)}\frac{\partial^2\psi(z)}{\partial z^2}-\frac{2m}{\hbar^2}E$$
さてここで右辺にある\(z\)を変化させることを考えてみましょう。
このとき\(x\)は変化しないので定数になっている必要があります。さらに同じように考えると\(y\)や\(z\)についても定数である必要が出てきます。よってそれぞれを定数すると以下のようになります。
$$\frac{1}{\psi(x)}\frac{\partial^2\psi(x)}{\partial x^2}=E_x$$
$$\frac{1}{\psi(y)}\frac{\partial^2\psi(y)}{\partial y^2}=E_y$$
$$\frac{1}{\psi(z)}\frac{\partial^2\psi(z)}{\partial z^2}=E_z$$
これは1次元箱型ポテンシャルのポテンシャルが0となる場合の式と同じですね。つまり\(x\)、\(y\)、\(z\)それぞれについて同じような波動関数が得られるということです。
1次元箱型ポテンシャルの解の利用
つまりそれぞれの方程式を解くと3つの波動関数が得られます。
$$\psi(x)=\sqrt{\frac{2}{L_x}}\sin{\frac{n_x\pi}{L_x}z}$$
$$\psi(y)=\sqrt{\frac{2}{L_y}}\sin{\frac{n_y\pi}{L_y}y}$$
$$\psi(z)=\sqrt{\frac{2}{L_z}}\sin{\frac{n_z\pi}{L_z}z}$$
3次元箱型ポテンシャルの波動関数
波動関数はそれぞれの積と考えたので、3次元箱型ポテンシャルの波動関数は
$$\psi(x,y,z)=\sqrt{\frac{8}{L_xL_yL_z}}\sin{\frac{n_x\pi}{L_x}x}\sin{\frac{n_y\pi}{L_y}y}\sin{\frac{n_z\pi}{L_z}z}$$
となります。
今日の要点
波動関数が求まったのでこの関数を使って粒子の存在確率や物理量を求めることができますね。
ここでは詳しく取り上げませんが、複数の変数を含んだ波動関数は、各々の変数1個を持ついくつかの波動関数の積で表せるという手法はこれからもよく使うことになります。
これで3次元の粒子も扱えるようになりましたね。箱型ポテンシャルは最も簡単な例ですが良い練習となります。それではポテンシャルが無限大じゃなかったらどうなりそうですか?
- シュレディンガー方程式を解くには変数分離が重要
- 3次元の場合でも1次元箱型ポテンシャルの解を利用できる
- 箱型ポテンシャルはシュレディンガー方程式の中で最も簡単な例となる
今回で3次元の箱型ポテンシャルまで波動関数を求めることができました。それではもしも「箱型」じゃなかったら?ポテンシャルが無限大じゃなかったら?次回は有限のポテンシャルエネルギーを持つ場合を考えていきます。
ポテンシャルエネルギーの値が有限になるだけで興味深い現象がみられるようになりますよ。
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