さて今回は、原子や分子などの物質に光を当てた場合に起きる反応について見ていきましょう。
え、光を当てただけで何か反応が起こるんですか?ただ物質が光に照らされるだけではないんですか?
実はただ照らされているだけでなく、電子といったミクロな視点では面白いことが起きています。それを今回探っていきますよ。
実は、この現象は化学反応というよりはどっちかというと物理反応です。何が違うのかというと化学反応は「ある物質とある物質が化学反応を起こして、別の物質に変化すること」ですが、物理変化とは「物質自体は同じだか、その状態や性質が変化すること」です。
水素と酸素から水ができるのは「化学変化」なのに対して、水が固体・液体・気体になるのは「物理変化」でしたね。
その通りです。そして今回扱う電子の動きとは、物質自体は変化しないので「物理変化」となります。そのことを頭に入れたうえで早速話を進めていきましょう!
【おさらい】光はエネルギーを持つ
本題に入る前にまずは前提をおさらいしましょう。それは「光が波長に依存したエネルギーを持っている」ということです。これは、高校物理でも大学でも出てくる\(E=h\nu\)の式ですよね。
エネルギーを持つ物体をぶつける
あ、それは覚えています。光はある波長\(\nu\)を持った光子として考えられるんでしたよね?
つまり光をある物体に対して照射するということは、光子をぶつけるということになります。もっとわかりやすく言えば、大きな物体に対して小球をぶつけるのと似た状況であることがわかります。
つまりエネルギーを持ったものを別の物体にぶつけるということです。ちょうど高校物理で勉強する運動量保存則のような状況に似ていますね。
高校物理の一体化問題
そして、このような運動量保存則を使う問題の中でも、特にぶつかった後に2つの物体が合体するタイプの問題があったと思います。光を物体に照射した際の現象はこの合体問題に非常によく似ていますので、まずはその点から理解を進めていくのも良いと思います。
光子というものが別の物体にぶつかるという点で状況は似ています。また、ぶつかる際には光子は吸収されてしまいますので合体問題を取り上げたというわけです。
次に「吸収」に関して、お話していきます。
光子の吸収
それでは次に「光子の吸収」について話していきます。光を当てることで物体にぶつかった光子はなんと物体に吸収されてしまうのです!
物体と光の関係性
この問いに対して、皆さんが思い浮かべる答えは何でしょうか?
すぐ思いつくのは「反射」とか「屈折」です。あ、あと高校物理で「散乱」も学習しましたよ!
そうですね!おそらくその3つはほとんどの人が思いつけるでしょう。実は光と物体の関係性にはもう1つ、「吸収」というものがあるのです。
光の吸収
物体に光が当たると、反射や屈折と同様に「吸収」が起こる場合があります。これを物体の色という観点とエネルギーの観点から見ていきましょう。
物体に色がある理由
「色」が見える原理についてはどこかで聞いたことがある人もいるかもしれませんね。簡単に原理を説明しましょう。物体に光が当たると反射される光の色と吸収される光の色に分かれます。人間が見ることのできる光は物体に反射して眼に入ってくる光なので、ある色の光だけが反射されるとその物体に色がついているように見えます。
つまり緑色の光だけを反射して、他の色は吸収してしまう物体であればその物体は緑色に見えるというわけです。
吸収に伴うエネルギー
このページの最初の方で光がエネルギーを持つことを復習しましたよね。物体が光を吸収するということは言い換えれば、物体がエネルギーを持ったものを外部から取り込むことなので、物体が持つエネルギーは吸収前後で変化してしまいます。
つまり、吸収前よりも吸収後の方がエネルギーは高くなっているはずですよね。さらに他の作用が無いとすれば、この現象にはみんな大好き「エネルギー保存則」が成り立ちます。
エネルギー保存則とは、物体が光を吸収した後に持っているエネルギーは物体が元々持っていたエネルギーと吸収された光が持っていたエネルギーの和と同じということです。ちなみに、ここでは光の吸収は光子の吸収と同じ意味です。
励起状態とは?
ここからが本題です。これまでの物体が光を吸収する話とそれに伴うエネルギーの話を、分子レベルのミクロな視点に置き換えていきます。
基本的なことは何も変わりません。分子が光を吸収すると実際にどのようなことが起こるのかをより細かく話していくだけです。
エネルギー変化
物体が光を吸収するとエネルギーが吸収前に比べて大きくなることは分かりましたよね。これは分子レベルでも同じです。分子が光を吸収すると、分子が持つエネルギーは大きくなるのです。
分子が持つエネルギーが大きくなると、実際にはどのようなことが起こるのですか?例えば小球とかだとスピードが速くなったりしますよね?
とてもいい視点です!実は分子の持つエネルギーが高くなると、分子内の電子に配置や動きに変化が起きます。
電子の配置と動き
分子内の電子について解説する前に、まずは電子軌道と準位図についておさらいしておきましょう。
ここから、クーロン力によってエネルギーが変化することがわかりますよね。そして、電子と原子核が離れれば離れるほどエネルギーは高くなります。つまり、分子内の電子は光という名のエネルギーを吸収すると、より外側の分子軌道へ移動します。
なるほど!電子はエネルギーをゲットできるので、より不安定な外側の分子軌道へ移動できるというわけですね。
電子励起とは?
光を吸収して、電子が元々いた軌道からより不安定な軌道へ移動することは理解できましたか?このある軌道から別の軌道へ電子が移動することを「遷移」といい、遷移の中でもより不安定な軌道へ移動することを励起といいます。
別の言い方をすれば、外からエネルギーを得ることによって電子が遷移することを励起ということもできます。
電子遷移とエネルギー準位図
電子の動きをエネルギー準位図を確認しておきます。今後、励起状態や基底状態といった分子の電子状態はこの図を使うことになるので早めに慣れておきましょう。
物理系・化学系の皆さんは慣れようとしなくても勝手に慣れていきます。それほど当たり前に出題されるということです笑
下のような電子配置を持った原子を励起することを考えてみましょう。電子は矢印で表されているのですが、これがどのように動くでしょうか?
これまでの話を踏まえると、より不安定な軌道へ電子が移動することになります。このエネルギー準位図では、上に行くほどより不安定な軌道を表しているので、電子を表す矢印は下の軌道から上の軌道へ移動しそうです。
つまりフントの規則を破って、電子が\(2p\)軌道のどれかに移動するということですか?
その通りです。エネルギー準位図を描くと下のようになります。矢印の向きがそのままのパターンとそうではないパターンの2種類が考えられるのですが、その話はまたいずれしましょう。
電子励起とは上のような電子状態になることを言います。フントの規則を忘れた人は以下の記事を参考にしましょう。
電子励起に伴う変化
電子励起については理解できましたよね。それでは最後に励起された分子がどのような変化を起こすのかを見ていきます。いくつかあるのでその中でも3つほど取り上げましょう。
分子の形状
励起すると分子の形状が変化することがあります。例えば、平面の形をしていた分子が折れ曲がったり、逆に折れ曲がっていた分子が平面上になったり…
これは分子によってどのような変化をするのか異なるので一概には言えませんが、中には相当ダイナミックに変化するものもありますよ。
反応性や性質
励起された分子は形状だけでなく、その反応性も変化することがあります。例えば励起することによって、化学反応を起こしやすくなったりするものもあります。他にも、酸性度が上がったり、逆に下がったりなど分子によって多様な反応性や性質の変化を示します。
光に対する物理的性質
最後は光に対する性質の変化です。実は励起とは1回だけでなく、2段階目、3段階目というように何回か引き起こすことができます。このように励起された分子が再び光と反応を起こすということがあり得るのです。
そして、この時の反応性が変化することがあります。この辺りは小難しい話がてんこ盛りなので、詳細は別の機会にしますので、そんなこともあるんだ~くらいで良いでしょう。
電子が入る軌道がちょっと変化するだけでよくもこんなに多様な変化が起きますね。
そうですよね。電子が化学や物理において、いかに重要な役割を果たしているのかがわかる事例です。
今日の要点
今回は電子の励起について見てきました。電子が入る軌道がちょっと違うだけで大きな変化をもたらすこと、電子が物理や化学において重要な役割を果たすことが分かったと思います。
大学の授業でいきなり励起とか言われて、訳も分からずどんどん話が進んでいった後にようやく理解できるなんてよくある事です。ここでなんとなくでも頭に入れておくとイメージがしやすいと思います。
話自体はよく分かりました!教科書では小難しい話ばかりだったので助かります。テスト前にまた戻ってこようと思います。
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