【量子化学】ヒュッケル法の考え方と近似をわかりやすく解説!

量子化学

今回は量子化学の重要事項の1つである「単純ヒュッケル法」について解説していきます。

量子化学とは化学反応に大きな影響を与える電子の動きを、量子力学の考え方を用いて解き明かす分野であり、単純ヒュッケル法とはその手法のうち最も簡単な計算手法の1つです。

shiki
shiki

これまでは「1次元箱型ポテンシャル」とそれに伴う「3次元箱型ポテンシャル」、そして「水素様原子」くらいしか扱いませんでしたので、久しぶりの計算ですね。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

まあ、本音を言うと計算はやめてほしいんですけどね…笑

ヒュッケル法とは?

まずはヒュッケル法が何なのかというところから見ていきましょう。量子化学計算の1つですのでもちろん、分子中の電子の動きや電子軌道のエネルギーを計算するための手法の1つとなります。

しかし、分子中に含まれるすべての電子を量子化学計算で扱うのは計算量の観点から難しいため、実際の計算にはいろいろな省略や近似を取り入れているということを以前にお話しました。コンピュータ計算がこれだけ発展した現在であっても、近似を取り入れてようやく数日間で計算し終えたりします。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

たしか近似をうまく取り入れることで計算量を減らしつつ、実験とできるだけ同じ状況を考えられるようにしていましたね。

shiki
shiki

その通りです。そして、今回出てきたヒュッケル法も同じように近似を取り入れています。それを理解するにはシグマ結合とパイ結合の話を振り返る必要がありますね。

おおざっぱには、シグマ結合とは「がっちり手をつないだ原子間の結合」のことで、パイ結合は「原子周辺にあるふわふわした結合」ということができます。そして、今回の話で重要なのはパイ結合の方です。

化学反応が起こる際、2つの原子や分子間における電子の受け渡しや移動が起こることを考えるわけですが、この過程で優先的に活躍するのはこのパイ結合と呼ばれる結合を形成している「ふわふわした」電子なのです。

shiki
shiki

まあ、シグマ結合を作っている電子は動かしにくく、パイ結合を作る電子は比較的動かしやすいため、優先的に移動できるとでも覚えておけば良いでしょう。

このような分子内の電子ごとの違いをしっかりと認識したうえでヒュッケル法について見ていきましょう。

単純ヒュッケル法

alandsmannによるPixabayからの画像

それでは「ヒュッケル法」の入門編とも呼べる手法を見ていくことにしましょう。ヒュッケル法では複数個の炭素原子が二重結合などでつながっているかつ電子が非局在化した分子について考えます。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

もう意味が分かりません。非局在化って何ですか?

shiki
shiki

非局在化というのは、「ある電子が1つの原子に固定されているわけではなく、もっと広い範囲をふよふよ動いている状態」のことです。

つまり、先ほど出てきたパイ電子のことだと思っておけば大丈夫です。また、ここでは、複数の炭素原子が二重結合(パイ電子を持つ)と単結合(パイ電子は持たない)を交互持つ「共役系」のお話です。

shiki
shiki

難しい話は置いといて、とりあえずベンゼンやブタジエン等をイメージしておけば大丈夫です。

近似を取り入れる

これまでの話を踏まえて、まずはヒュッケル法で取り入れる大元の近似法を考えます。それは簡単に言えば「とりあえず動きやすいパイ結合を作っている電子を考える」です。このような近似を取り入れるヒュッケル法のことを「単純ヒュッケル法」といいます。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

なぜパイ結合をつくっている電子だけを考えるんですか?ほかにも分子内にはたくさんの電子がありますよね?

shiki
shiki

とてもいい質問です。これは最初に確認した通りパイ電子が最も動きやすく、化学反応の際に大きな影響を及ぼすからです。他の電子が全く関係ないわけではありませんが、1番寄与の大きい部分を真っ先に考えるためにこのような近似を取り入れます。

ここから数式が少しずつ出てくるので、1つ1つ丁寧に理解していきましょう。見た目は難しく感じるかもしれませんが、その数式が言いたいことはそんなに複雑なことではありません。笑

shiki
shiki

まず手始めに2つの数式が登場します。数式の形を公式的に暗記するよりもその意味をしっかり理解しておく方が重要です。

分子軌道近似

今回扱う分子軌道を数式で表す際の近似について解説します。単純ヒュッケル法では分子軌道に2つの近似を導入して、数式を簡潔に表現できるようにします。この近似はあくまでも数式を簡潔に表現するための近似です。

shiki
shiki

この数式を考える際の近似の1つめは「分子軌道近似」、2つめは「LCAO近似」です。

分子軌道近似を簡単に言うと、「分子全体の軌道はその分子を構成する原子1つ1つの原子軌道が重なり合って形成される」と近似することです。要するに、1つ1つの原子が組み合わさって全体が出来上がるのであって、分子になったからと言って今までになかったものが勝手にはできることはないということです。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

なるほど、分子にしかないような軌道ではなく、あくまで原子の組み合わせでできるものと考えるということですよね。

shiki
shiki

これを数式で表すのであれば、下記のようになりますね。

\(\Psi=(\phiの式)\)

ここで\(\Psi\)は全体の分子軌道、\(\phi\)は原子軌道を表します。

LCAO近似

次の近似ですが、この近似の名はLCAO近似といいます。LCAOとは「Linear Combination of Atomic Orbital」の略称です。Linear Combinationとは日本語で「線形結合」のことなので、つまりこの近似は「原子軌道の組み合わせでできる分子軌道は、もともとの原子軌道の線形結合で表現できる」と考えるということです。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

つまり2乗とか複雑な式は一切使わず、各原子軌道に係数がかかったものを足しただけと考えるということですか。ということは数式的には下のようになるのかな。

\(\Psi_j=\sum_{p=1}^{n} c_{p,j}\phi_p\)

\(\Psi_j\)は\(j\)番目の分子軌道、\(c_p\)は\(p\)番目の炭素原子の原子軌道の係数を表しています。

shiki
shiki

どちらの近似も大丈夫そうですね。数式とその近似の意味の両面からしっかり理解しておきましょう。

単純ヒュッケル法の立式

Ralf RuppertによるPixabayからの画像

ここまでの近似が理解できれば、とりあえず入り口には立つことができたことになります。次に、この近似からエネルギー値を求める段階に移っていきます。

先ほど様々な近似を取り入れて作成した分子軌道の式をシュレディンガー方程式に代入してそのエネルギーが最も小さくなる、すなわち分子全体が安定となるように係数\(c_{p,j}\)を決めてみましょう。

shiki
shiki

基本的に分子は最もエネルギー的に安定した状態になりたがるので、今回の計算でもエネルギーがより小さくなるように係数を決めていきます。

代入してみると、下のような式になります。少し複雑になってきましたが、ただ代入しただけですので難しさだけで惑わされないようにしましょう。

$$\hat{H}\Phi_j=\epsilon_j\Phi_j(j=1,2,3…)$$

ここに右から\(\Phi_j\)をかけ算した後に積分し、\(\epsilon_j\)について解くと、下のようになります。(ここでは簡単のために、波動関数は実関数として考えていきます。)

$$\Phi_j\hat{H}\Phi_j=\Phi_j\epsilon_j\Phi_j(j=1,2,3…)$$

$$\epsilon_j=\frac{\int\Phi_j\hat{H}\Phi_jdv}{\int\Phi_j\Phi_jdv}(j=1,2,3…)$$

この式自体はある1つの原子軌道が持つエネルギーについて解いたものとなっていますが、今回考えるのはそれらが複数組み合わさった分子軌道なので、そこに含まれるすべての原子軌道を考える必要があります。

shiki
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つまり、\(\epsilon_j\)の式に線形結合で表した分子軌道の式を代入します。代入した式を書き表してみると次のようになります。

$$\epsilon_j=\frac{\sum_{p} \sum_{q} c_{p,j}c_{q,j}\int\Phi_j\hat{H}\Phi_jdv}{\sum_{p} \sum_{q} c_{p,j}c_{q,j}\int\Phi_j\Phi_jdv}(j=1,2,3…)$$

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

いやいや、さすがにそろそろ複雑すぎませんか。もうなにがなんだかか分からなくなりそうです。

shiki
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じゃあ少しだけ表記を変えましょうか。\(\int\Phi_j\hat{H}\Phi_jdv\)を\(H_{pq}\)に、\(\int\Phi_j\Phi_jdv\)を\(S_{pq}\)に書き換えます。

このように書き換えると上の式の見た目は下記のようにもう少し簡単になります。

$$\epsilon_j=\frac{\sum_{p} \sum_{q} c_{p,j}c_{q,j}H_{pq}}{\sum_{p} \sum_{q} c_{p,j}c_{q,j}S_{pq}}(j=1,2,3…)$$

これがヒュッケル法の立式になります。少し難しかったかもしれませんが、このページに書ききれるくらいの煩雑さで量子化学計算が実行できるのは結構すごいことです。

エネルギーを求める

様々な近似を用いて導出したこの式を基にして、今考えている分子が最小のエネルギーを取るように係数\(c_{p,j}\)を決めていきます。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

ええー!

まだ立式しただけでエネルギー計算は何も進んでいないってことですか。

shiki
shiki

残念ながらその通りです。2次方程式とかで例えれば問題文を読んで立式はしたけど、実際にはまだ方程式を解く段階には入っていないということになります笑

しかしここまでさすがに長くなりましたし、ここからも長いので今回は立式までにとどめておいて、実際の計算は次回に譲ります。

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