【量子化学】ボルンオッペンハイマー近似と固有方程式の性質

量子化学

今回は電子と原子核の運動を記述するために良く用いられるボルンオッペンハイマー近似とそれに関連する固有方程式の性質を解説していきます。固有方程式の解説部分については、数学分野で行う詳細な解説というよりはシュレディンガー方程式を解く際によく用いることになる性質が中心となります。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

これまでもいくつか近似法がありましたが、ボルンオッペンハイマー近似もそのうちの1つですか?

shiki
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そうですね、これまではハートリーフォック法に出てきたような電子同士の相互作用に関する近似でしたが、今回は電子と原子核間の近似になります。この近似を用いることでシュレディンガー方程式を簡単に扱えるようになります。

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【復習】原子の構成

Bernhard JaeckによるPixabayからの画像

原子とは陽子と中性子からなる原子核と電子で構成されており、分子ではそれがいくつか集まった構造をしています。つまり、物質をミクロな目線で見れば原子核という陽子や中性子が集まった部分がいくつかあり、その間や周りに電子があります。

陽子と電子の質量差

それではここで原子核と電子の質量の違いに注目してみましょう。大多数の人は高校物理で、早い人は中学生くらいでも知っている人がいると思いますが、陽子や中性子は電子の質量よりもおよそ1800倍程度重いです。つまり、原子核と電子の質量を比較するとそれ以上に差があることがわかります。

化学が苦手な男の子
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この差がそんなに重要なことなのですか?

shiki
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質量の大きな差が重要な性質をもたらします。運動量の観点から簡単に考えていきましょう。

例えば1gの物質と100kgの物質があるとしましょう。この2つの物質を同じ力で同じ時間押し続けたとします。この場合は加えた力積が同じなのでその後の運動量は同じですが、速度のみに注目するとその値はかなり違います。この例と同じように、分子の中でも質量の軽い電子は素早く動くことができ、質量の大きい原子核はちょっとやそっとでは動きません。

shiki
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厳密にはもちろん動きますが、電子の方が比べ物にならないくらい素早く動くということです。なので、あくまで近似と呼ばれています。

断熱近似とボルンオッペンハイマー近似

この考え方から、1つの近似が導入できます。分子に光を当てるなど外部から刺激を加えた際に起こる変化(電子遷移)はまず電子が即座に反応し、電子の変化がある程度収まった後に原子核が変化するといった順番があるという近似が考えられます。これだけ聞くと何が近似なのかと思いますが、言い換えれば電子が変化している間は、原子核はほとんど変化せず、その場にとどまっていることになります。2つ同時に変化しないということだけでも充分なのです。

ある状態から別の状態への電子遷移を1つの固有関数で完全に表すことはできず、複数の他の状態からの相互作用を含んだ項が必要となります。これらの項を無視するという近似が行われ、非断熱項と呼ばれる項を無視するのが断熱近似、そのような相互作用を表す項を全て無視するのがボルンオッペンハイマー近似と呼ばれます。

ここでは具体的な数式の解説は行いません。イメージ上は断熱近似で原子核と電子の運動の分離が導入され、さらにボルンオッペンハイマー近似によって原子核の振動運動と回転運動が分離されると知っておけばいいでしょう。

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シュレディンガー方程式と変数分離

Zhu BingによるPixabayからの画像

それではこの分離がなぜ必要なのかを解説していきます。上記で解説した運動の分離というのは、お互いに相互作用を持たないということなので、それぞれ電子の座標\(r\)と原子核の座標\(R\)を用いた波動関数の積として下の式のように書けます。

$$\psi(R,r)=\psi(R)\psi(r)$$

ここで重要なのは波動関数が2つの座標のうち一方のみを含んだ関数の積として書けることです。以前も3次元箱型ポテンシャルでも扱いましたが、シュレディンガー方程式を解くにあたって変数が分離できることはすごく大きな利点なのです。

化学が苦手な男の子
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なるほど、変数分離ができればシュレディンガー方程式を解くのが簡単になりますね。

近似導入による数式上の特徴

Willfried WendeによるPixabayからの画像

そして、この近似の導入と波動関数の形によって最後に求められる系のエネルギーにもある特徴が出てきます。次に数式上での利点について確認していきましょう。

系全体のエネルギー

今回の近似の導入によって全体の波動関数が各々の変数を片方のみ含んだ波動関数の積で表されることがわかりました。このように各々の波動関数が分離された形で書けるとき、系全体のエネルギーに関しても下のように簡単に書き表すことができます。

$$E=\epsilon_{electron}+\epsilon_{vibration}+\epsilon_{rotation}$$

つまり、分離した場合に考えられるそれぞれのエネルギーの和として書き表すことができます。これはシュレディンガー方程式を解くときに導入する近似としてよく出てくる形です。もちろん厳密ではありませんが、大まかな近似としては結構使える場面も多いです。

固有方程式の性質

このような形になるのは何も偶然ではなく、固有方程式の性質として知られているもので、固有関数が各々の関数の積で表され、その方程式中の演算子が同様の変数の和で表されるとき、その解となる固有値は各固有関数に演算子を作用させたときの固有値の和となります。つまり、全エネルギーは別個で求めたエネルギーの和となるわけです。

化学が苦手な男の子
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このように変形できると仮定すればすごく方程式が解きやすくなることは分かりました。

今日の要点

今回はボルンオッペンハイマー近似と波動関数とエネルギーの性質について簡単に解説しました。厳密に考えるとこんなものでは終わらないほど複雑なので、もし興味がある場合はしっかり書かれた教科書等を参考にするといいと思います。

shiki
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ここではあくまでイメージ的な部分を重要視していることを忘れないでくださいね。

この近似を基に、分子のポテンシャルエネルギー曲線の近似値であるモースポテンシャルや電子遷移と振動遷移に関連するフランクコンドンの原理などが登場します。今回は短くなりますが、ここで終わりにして上記の2つに関してはまた別の機会に開設することにしましょう。

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