【量子化学】ハートリーフォック法とは?方程式の導出と概要

量子化学

今回はハートリーフォック法について見ていきましょう。以前にシュレディンガー方程式は、電子同士の相互作用が苦手という話をしたことがありました。ハートリーフォック法は、その苦手ポイントを克服するために考え出されたものです。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

電子間の反発力を入れると方程式が解けなくなるんでしたっけ?だから2電子以上の原子や分子では、近似的な解しか出せないということは覚えています。

shiki
shiki

今回の手法はその近似解を出すための1つの解決策です。言っていることはそこまで難しくないので、頑張って理解しましょう。

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平均場近似

それではまず平均場近似を理解しましょう。電子同士の反発力を方程式に取り入れるため、この考えを適用します。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

なんかすでに難しい用語でわからなくなりそうです…。

shiki
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平均場とは電子が持つ電荷を平均化して電場として考えることです。つまり電子1つ1つを粒子として考えず、ふわふわと原子核の周りに電場を形成しているものと捉えます。この後詳しく解説していきます。

電子が2つ以上あると、その相互作用によってシュレディンガー方程式が解けなくなります。これを解決するには、電子間反発をシュレディンガー方程式が解ける形で取り入れることが必要です。さて、そのためにはどうすれば良いでしょうか?

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

電子を粒子として考えずに解くなんてことができるんですか?

【高校物理】電場中ではたらくクーロン力

ここで少し高校物理を復習しましょうか。思い出すのは電場中に置いた荷電粒子にはたらくクーロン力です。この力を数式で書くと以下のようになりますよね。

$$F=qE(r)$$

電場は荷電粒子の位置によって電場の大きさや向きが異なるので、荷電粒子の位置\(r\)に依存します。つまり、電場中で粒子にはたらく力は位置ベクトルの関数ということが出来そうです。

shiki
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もしかしたら、高校物理では電場が位置ベクトルの関数というのは学習していないかもしれませんが、この考えがシュレディンガー方程式を考える際に役に立ちます。

他の電子から受ける力を平均化する

電子同士の反発力が方程式にあると、シュレディンガー方程式が解けなくなってしまうので、工夫が必要と最初に言いました。その解決策とは、「注目している電子以外の電子の存在場所を平均化して、電場として考える」です。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

何を言っているのか、全くわかりません…。

電子の観測確率と電場の強さ

つまり、電子は観測するごとにその位置を変化させるので、その出現確率と電場の大きさを対応させて、電子を粒子ではなく電場として取り扱う方法です。

shiki
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電子が観測される確率の高い場所では電場の大きさが大きく、確率が小さい場所では電場の大きさは小さいといった具合です。

電子が観測される確率については下に載せた電子軌道や波動関数についての記事を読んでみましょう。

なぜ平均化するのか?

電子の観測確率と電場の大きさを対応させて、平均化すれば良いことは分かりましたが、なぜこうするとシュレディンガー方程式が解けるようになるのでしょうか?普通に電子を扱う場合と何が違うのでしょう?

shiki
shiki

ここからは数学に寄った話になるので、面倒くさいという人は飛ばしても大丈夫ですが、知っておいて損はありませんよ。

結論からいうと「解くべきシュレディンガー方程式中の変数が1つ減るから」です。高校物理での電場の式をもう一度見返してみると、電場から受ける力は注目している電子の位置ベクトルにしか依存していませんね?

一方で、通常のクーロン力によって電子を扱えば変数は電子2つ分、2個になってしまいます。ちょうど下の式のように、2つ使わないと電子間の距離が表せません。

$$F=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{q_1q_2}{|\vec{r_1}-\vec{r_2}|^2}$$

shiki
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このように変数が2つあると、方程式を解く際に「変数分離」が出来なくなってしまいます。これが、電子2個以上のときにシュレディンガー方程式が解けなくなる理由です。

変数分離については「1次元箱型ポテンシャル」の問題で出てきますので、しっかりチェックしておきましょう。

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シュレディンガー方程式を立ててみよう

それでは平均場近似を使って、シュレディンガー方程式を立ててみましょう。いつも通りハミルトニアンから考えてみましょうか。

ハミルトニアンを考える

ハミルトニアンを考える際は、運動エネルギーとポテンシャルを考えればよかったですね。電子の運動エネルギーは、もうお分かりだと思うので割愛します。ポテンシャルは大きく2つに分かれており、「原子核の影響によるポテンシャル」と「他の電子の影響によるポテンシャル」とがあります。

原子核の影響によるポテンシャル

まずは「原子核の影響によるポテンシャル」から考えましょうか。原子核は電子よりもずっと重いので、静止していると仮定して考えると良いでしょう。

shiki
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ちなみにこの仮定のことを「ボルン・オッペンハイマー近似」と呼びます。以前少し出てきましたが、運動量保存の法則によって原子核と電子のスピードに大きな差が出るため、核は静止していると見なしてOKといった近似法です。

そのため、原子核が持つ電荷を\(+Z\)、電子の電荷を\(-e\)とするとこの2つの間にはたらくクーロン力によるポテンシャルは下の式のようになります。\(R\)は2粒子間の距離です。

$$U=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{Ze}{R}$$

他の電子の影響によるポテンシャル

こちらは電子間反発を考えますが、上で考えた原子核と電子とのクーロン力によるポテンシャルと同様に表してはいけません。他の電子からの影響は、一様に分布した電場と同じと考えるのでしたよね?この他電子からの影響を取り入れた電場を\(E(r)\)と置くと

$$U=E(r)$$

ハミルトニアン

今回は複数の電子を考えているので、運動エネルギーやポテンシャルはすべての電子分を考える必要があります。そこで、\(\Sigma\)を使って、上記で導出したハミルトニアンを書くと以下のようになります。

$$\hat{H}=-\sum_{i}-\frac{\hbar^2}{2m_i}(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2})-\sum_{N}\sum_{i}\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{Z_Ne_i}{R}+E(r)$$

方程式の解法

上で出たハミルトニアンを用いるとシュレディンガー方程式は次のようになります。\(\phi_i\)と\(\epsilon_i\)はそれぞれの電子の波動関数とエネルギーを表しています。

$$\hat{H}\phi_i=\epsilon_i\phi_i$$

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

ハミルトニアンの中身は見るからに複雑だったけど、まさかこの方程式を解いていくんですか?

shiki
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いえいえ、この方程式を手作業で解くのはさすがに無理があります。しかし、解く過程の考え方は非常に重要なので押さえておきましょう。

無限ループって怖い…

この方程式を解こうとするとすぐにわかるのですが、例えば\(i\)番目の電子の波動関数やエネルギーを求めようとすると、他の電子の波動関数が求まっていないと計算できません。

もちろん、\(i\)番目以外の電子についても解く順番を入れ替えただけですから、同じことになってしまいます。つまり他の解がわかれば解けるけど、その他の解を求めるためには、その求めたかった解がわかっていないといけない…といった状態です。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

つまり何もわからない無理ゲーってことですか?

SCF法

その解決策として「SCF法」が生み出されました。この方法を簡単に説明すると、「とりあえず適当に解を決めて計算してみる。その計算結果と適当に決めた解との間に矛盾がなければOK」という具合です。

もし、適当に決めた解が間違っているものであれば、他の解もその解を使って求めるわけですからどこかで必ず矛盾が生じます。逆に言えば、矛盾が生じなければ正解として良いということですね。

shiki
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この計算を解が一致するまで行えば、方程式を解いたことになり、矛盾があるかないかを考える過程が検算としての役割を持っています。そしてこの量の計算は人間には無理なので、コンピュータの出番なのです。

この計算を使った量子化学計算もあるくらい有名な手法ですので、頭に入れておきましょう。

今日の要点

今回は2つ以上の電子を持つ原子や分子におけるシュレディンガー方程式の使い方を見てきました。電子間反発を考えられないのならば、近似してしまおうと考えた人は偉大ですね。笑

また、コンピュータで計算するときの手法を知っておくことは重要です。

化学が苦手な男の子
化学が苦手な男の子

まあ、自分の手を使ってその手法を計算に適用することはないと思いますが、ちゃんと理解しておきます。


参考文献

量子化学ー基礎からのアプローチ(真船 文隆)

詳解 量子化学の基礎(類家 正稔)

はじめての量子化学 量子力学が解き明かす化学の仕組み(平山 令明)

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